ステークホルダー

石澤直也自然詩vol.44 (2016年01月26日更新)

くぬぎ山の自然 2016年2月号

 

冬鳥について

冬枯れの雑木林は虫たちは姿を消し、

寒々とした風景を醸し出しています。

こんな林で野鳥は冬鳥しか見られません。

初夏に渡ってきた渡り鳥は、秋には南の国へ帰って行って、

代わりに北国で夏を過ごしていた渡り鳥がやってきます。

 

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写真1 ツグミ

 

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写真2 冬枯れの雑木林

 

これらの渡り鳥の代表種はツグミです。

ジョウビタキはツグミ類に属し民家の庭にも良くやってきます。

マヒワ、カシラダカ、アオジ、シメなども冬鳥として雑木林で見られます。

 

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写真3 ヤマガラ

 

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写真4 コゲラ

 

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写真5シメ

 

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写真6 メジロ

 

留鳥のシジュウガラが代表種のカラ類も冬鳥で、

落葉した雑木林の中を群れを作って移動していきます。

シジュウガラを始め、ヤマガラや、エナガ類ではエナガ

キツツキの仲間のコゲラも混じっています。

たまに黄緑色のきれいな留鳥のメジロも見られ、住宅街にも現れます。

 

冬は虫たちは活動を止めていて、

一部のフユシャクの蛾類を除いて見ることは殆どありません。

これらの冬鳥は何を食べているのか、インターネットで調べても、

餌台で餌をやるとか、やらない方が良いとか、

ピラカンサの実を食べていたとかは書いてありますが、

野外でどのように餌を採っているかは書かれていません。

そのような研究は国内ではやられていないようです。

 

シジュウガラやエナガなどはよく枝から枝へ渡って移動していきます。

その間枝や幹を突いたりします。

小生は、彼らが枝や幹に生み付けられた虫の卵を食べているのではと考えたのですが、

それにしては余りに小さくて余ほど沢山啄まないと腹一杯にはならないでしょう。

 

冬鳥が野外でどのように餌を採っているか、きちんと調べた人がいました。

アメリカのバーモント大学教授のベルンド・ハインリッチ博士です。

彼は真冬の林の中で野鳥がどのように過ごしているか、

キクイタダキ(英名kinglet)の体温生理から、

木で越冬している蛾類の幼虫まで組織的に調べていました。

零下30℃にもなる日、彼は森に入って太い木の幹で

カエデの幹を思いっきり叩いて木の実や虫の幼虫を

雪面に落として幼虫だけを集めたそうです。

その後はモミノキやトウカエデなど200本以上も試したそうで、

採集した幼虫の他にクモも含まれていたそうです。

幼虫(シャクガの仲間)が枝で越冬して、

それが野鳥のキクイタダキの餌になっていることは、

そのときまで報告されていなかったそうです。

幼虫の同定を専門家に依頼したのですが、

殆どは同定不可能だったとのこと。

飼育すれば可能だったのですが、

餌の植物が不明で、失敗したとのことです。

 

キクイタダキは体重が6グラム以下で、

小鳥の中でも最小の部類に属します。

体温は他の小鳥よりも3℃高く43-44℃だったとのこと。

人よりも7℃くらい高いわけで、

このような高い体温を維持できるのは体を覆っている羽毛が

外気温から身を守る絶縁体になっているとのこと。

 

バーモント州の冬の野外気温は-30℃にもなりますから、

体温と外気温との差は74℃にもなります。

体温維持のためには外気温を絶縁する羽毛の他に

体内の栄養源を燃焼させて造り出す代謝熱があり、

この場合カロリーの消耗が大きいわけで、

それを林の中の木々の枝についている蛾の幼虫が担っていることになります。

 

しかし、国内を振り返ってみると、

最近雑木林の中で見る蛾は少なくなっています。

狭山丘陵の奥、金堀沢ではゴールデンウィーク頃林道を歩くと、

道を覆っている木の枝から糸を引いて落ちてくる

多くの蛾の幼虫が見られたものです。

しかし、2000年頃からその数がぐんと減りました。

ある人は今では20年以上も前と比較すると

蛾は1/10以下になっているのではと言っていました。

 

蛾の幼虫が減ると、冬場の餌不足をきたします。

また、春の野鳥の繁殖期には雛の餌としてタンパク質が必要ですから、

蛾の幼虫は雛の餌として不可欠なものです。

その幼虫が減れば雛を育てられなくなるのですから、野鳥は減ります。

 

最近野鳥は確かに減っています。

雑穀類も食べるスズメですら数えるほどになっています。

雛には雑穀は与えることは出来ず、蛾の幼虫に頼らざるを得ず、

それが減っているのですから、スズメが減るのは当然です。

 

野外で冬を越している冬鳥も日本では本当に厳しい生存にさらされています。

 

なお、ここでハインリッチ教授の著書を紹介します。

New York Times Bestsellerで他にSummer Worldも著しています。

 

Bernd Heinrich, 2009. Winter World, 副題 The ingenuity of animal

survival, Harper Perennial.

石澤直也自然詩vol.43 (2015年12月28日更新)

くぬぎ山の自然 2016年1月号

 

最近の紅葉事情

 

過日、テレビで鬼怒川の紅葉の模様が放映され、

リポーターがきれいと言っていたのですが、

鬼怒川両岸の所々が少し赤みを帯びていただけでしたので

非常に違和感がありました。

そこで、日光市に2015年(今年)の紅葉について照会したところ、

奥日光の支所からはやはり少しおかしかったと報告があったそうです。

その後東北地方の紅葉はどうかとテレビを注意して見ていたら、

秋田内陸縦貫鉄道や会津若松から西の磐越西線沿線の模様が放映され、

ミズナラ類の紅葉は普通の明るいオレンジ色に輝く

東北の紅葉であることが分かりました。

 

JR東海の「京都へ行こう」という宣伝では

真っ赤に色づく紅葉シーンが映し出されますが、

最近の京都の寺院の紅葉の模様が映し出されたときは、

やはり紅葉がいつものとは違って黄色い部分が多いように見えました。

関東より西では紅葉が様変わりしたと言えるようです。

 

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写真1 所沢市山口菩提樹のモミジの紅葉。2015年12月10日 

 

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写真2 モミジ紅葉菩提樹。2015年12月9日

 

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写真3 紅葉菩提樹。2013年11月22日

 

狭山丘陵で会った人に今年の紅葉はどうですかと聞くと、

やはり少しいつもと違うという答えが返ってきました。

写真2は狭山丘陵の所沢市山口の菩提樹地区で撮影したもので、

写真1を撮影した日の前日のモミジの紅葉です。

これを写真3の同じ場所で2013年11月22日に撮影したものと比べると、

紅葉の色が違うことが分かると思います。

今年のものは黄色味が強い様に見えます。

(間違いのないように写真にはサイズとドット数-dpi-の変更以外は手を加えていません。)

 

他の場所も比較して見ました。

写真4は今年12月8日の菩提樹にある菩提樹池の紅葉と

写真5は同じ池の5年前の12月9日の写真です。

今年の池の周りの木々はまだ紅葉していないものも見られます。

5年前のほぼ同じ時期では奥の方は紅葉が過ぎて葉が散っています。

 

写真6と7は菩提樹池の手前の田んぼから丘陵の紅葉を撮ったものです。

写真6は今年の12月1日に、写真7は2年前、2013年11月30日に撮影したものです。

2年前の丘陵の雑木林はほぼ紅葉しているのに、

写真6の今年の写真では右側のクヌギの木が紅葉しているのに、

奥の方はまだ緑が濃い状態で紅葉は見られません。

 

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写真4 紅葉の菩提樹池。2015年12月8日

 

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写真5 紅葉の終わりの菩提樹池。2010年12月9日

 

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写真6 菩提樹地区。2015年12月1日

 

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写真7 菩提樹地区。2013年11月30日

 

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写真8 くぬぎ山所沢市駒原。2013年11月21日

 

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写真9 くぬぎ山所沢市駒原2015年12月6日

 

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写真10 コナラ紅葉のバラツキ雑魚入。2015年12月20日

 

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写真11 汚いコナラの葉菩提樹。2015年12月10日

 

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写真12 きれいなコナラの紅葉高峯。2015年12月20日

 

写真8と9は所沢市、狭山市、川越市と三芳町の3市1町に跨る

くぬぎ山地区(武蔵野台地に位置する)の所沢市駒原の同じ場所を撮影したものです。

左側の木立が写真8では黄色く色づいていますが、

写真9ではまだ紅葉していませんが、右側のコナラは両方の写真ともに紅葉しています。

写真8と9では撮影日が2週間余違っていて、今年の方が遅くなっています。

狭山丘陵や武蔵野台地のくぬぎ山の雑木林ではコナラが主体ですが、

そのコナラにもモミジ同様紅葉にバラツキが出たのが今年の特徴と言えます(写真10)

写真11は今年の紅葉途中の汚いコナラです。

 

一方で、写真12は大分遅く、12月20日頃になってきれいに紅葉したコナラです。

今年はこのように紅葉にも大分時期的なバラツキが出ました。

モミジも場所によってきれいなものと黄色の段階で終わったものなど、バラツキが目立ちました。

 

このような事が何故起こったのか、今年だけではなく、

顕著に見られるようになったのが昨年(2014年)からのように思えます。

 

紅葉について一般的に言われることは、

夏が暑く、秋の終わり頃、朝の最低気温が6-7℃になると紅葉が始まり、

晴天が続いておよそ20-25日後に見頃になると言われています。

もっと詳しい説明によると、気温が下がり出すと、葉の中への水分や糖分の供給が止まり、

葉緑素が分解されてカロチノイドという黄色い色素が浮き出てきます。

赤色色素が形成されない場合は黄葉することになります。

 

一方、葉の中にあるアントシアニジンがブドウ糖と結合して

クリサンテミンという赤色のアントシアニン系色素が形成され、

クロロフィルが分解されて赤が目立ってきます。

これが紅葉だと言われています。

 

夜間の気温が高いと昼間に形成された糖分が使い果たされて

鮮やかな赤色の紅葉にはならないのだそうです。

紅葉には適度な湿り気も必要とか。

 

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図1 2011-2015年の8-9月の旬別平均最高気温と10-12月上旬の旬別平均最低気温の比較。

 

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表1 2011-2015年の10月上旬から12月上旬の旬別日照時間

 

今年の気象状況がどうだったのか。

 

図1は最近5年間の夏の終わりから秋の初め(8-9月)の高温や

秋(10-12月上旬)の低温を旬別に平年値との差を表しています。

2015年と2014年が平年値との差が大きく、

夏が低温で秋遅くなって気温が高めで推移しています。

夏に気温が高く秋に低温の紅葉に適した条件の年は2012年でした。

2015年の夏は天候が思わしくなく、

秋に入って平年よりも気温が高い日が続きました。

 

これは日照時間にも現れていて、

2015年は11月中旬と下旬は非常に短くなっています(表1)。

つまり、紅葉シーズンに晴天が少なく、

最低気温が高い日が続いたがために紅葉がスムーズにいかず、

それで紅葉にバラツキがでたり、

汚い紅葉になったというのが実情だったようです。

 

さらに根本的なことを言えば今年は極めて強いエルニーニョが発生した年で、

日本近海の海水温が高くなってこれが秋遅くまで気象異変をもたらしたと言えます。

これは温暖化の一つの現象と言えるかもしれません。

 

これからは本物の紅葉を見る機会は減るかもしれません。

 

紅葉がきれいだなどと本物を知らないと今にとんでもないことになるかもしれません。

未来の世代の人達が本物の紅葉を見られるように、

私たちは温暖化ということにもっと注意を払って生きることが必要だと思います。

石澤直也自然詩vol.42 (2015年12月01日更新)

くぬぎ山の自然 2015年12月号

 

くぬぎ山の生き物の多様性

くぬぎ山は所沢市、狭山市、川越市と三芳町にまたがる雑木林で、

その面積は約150haです。

 

しかし、最近は資材置き場や住宅地としての開発が進み、

雑木林の部分は大凡80haくらいまで減少しています。

小生が当地に係わるようになって12年経過しました。

 

2003年から2004年の5月頃まで1年以上かけて

当地の生き物を調べましたが、小生が調べた生き物は表1に示すとおり、

植物は110科417種、動物は189科700種、うち昆虫は153科644種と、

埼玉県がくぬぎ山自然再生協議会の検討資料として

公表した調査結果(植物90科315種、動物134科337種、

うち昆虫は101科268種)を遙かに上回るものでした。

 

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表1 くぬぎ山の生物

 

この調査では絶滅危惧種等、重要生物(植物と昆虫)が

県の調査の3倍近く見つかっています(表2、RDB区分は2004年当時の定義)。

 

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表2 RDB区分は2004年当時の定義

 

これらの重要生物も、 レンゲツツジオミナエシのように

最近は見られなくなっているものもあります。

両種とも下刈りで刈り払われたり、

メリケンカルカヤの群落にとりこまれた結果です。

 

ランの仲間でコクランは当時埼玉県では野生絶滅と定義されていましたが、

今は当地以外に2カ所見つかっていて、

定義も絶滅危惧IB類(EN)に変更になりました。

花が極めて小さく、あまり興味を誘うようなランではありません。

当地では当初30株ほどでしたが、現在は20株くらいに減っていました。

 

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写真1 フデリンドウ

 

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写真2 リンドウ

 

希少種ではありませんが、当地には春はフデリンドウ(写真1)

夏はヤマユリ、秋にはリンドウ(写真2)が林床を飾ります。

 

昆虫では他では見られないオオオカメコオロギがいます。

埼玉県では当初新座市の平林寺で確認されましたが、

現在では絶えてしまったようです。

滑川の武蔵給料森林公園で少数見つかっている程度です。

また、クツワムシは極めて多く生息しています。

 

このようにくぬぎ山は武蔵野台地に広がる自然豊かな雑木林です。

ここ武蔵野台地には他に川越市下松原のふれあいの森、

狭山市の上赤坂の雑木林、所沢市北中と狭山市南入曽に

またがる雑木林があります。

これらの雑木林の生き物はそれぞれ特徴がありますが、

その中でくぬぎ山はもっとも生物相が豊かな雑木林です(表3参照)。

 

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表3 武蔵野台地の雑木林の生き物の種数等の比較(科数と種数は最新のもの)

 

雑木林がどのくらい生物相が豊かを大凡推定できたら

環境保護活動に役立つのではないかと思われます。

森林面積から種数が推定できれば、

アセスメントを委託する方はあらかじめ費用の見積もりや、

委託先の手抜きなど調査の質も計れる可能性があります。

森林そのものは標高や緯度、湿原か草地でも種数は変わってきます。

これらの変数は質的なものも含むので多変量解析の分野になります。

 

因みに所沢市山口の狭山丘陵の雑木林では池、

湿地や草地も含む雑木林4haの面積では昆虫はおよそ1800種見つかり、

植物も400種余記録されています。

湿地など他の要素が入ると非常に生物相が豊になります。

ここでは武蔵野台地という古多摩川の扇状地に広がる比較的同質の雑木林という前提で、

 

回帰分析という手法で方程式を作ってみました(表4と図1)

 

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表4 武蔵野台地の植物と昆虫の多様性比較

 

対象の雑木林は上記の4地域の他、所沢市下新井の市有地も含めて15カ所です。

下新井を除いて、調査は小分けして実施し、全体で15区画を回帰分析したものです(図1)

 

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図1 武蔵野台地の雑木林の面積と植物および昆虫の種数の関係。

 

植物y=1.861x+186.718 r=0.517,p=0.049

昆虫y=2.592x+168.425 r=0.488,p=0.065

 

確率(p)は0.049と0.065ですからかなり正確と言えます。

植物は186種に面積1ha当たり1.861種を掛けたもので、

誤差は±44種でした。

 

つまり、186種+面積に1.861掛けたものが雑木林の植物の種数になります。

誤差の範囲の上限を上回れば非常に豊かな植生と言えます。

昆虫では168種+1haあたり2.592種掛けたものが当該雑木林の種数になります。

誤差(±65)の上限を上回る場合は非常に多いと言えます。

一方、誤差の範囲を下回る場合は非常に貧相な生物相だと言えます。

この方程式から得られる数値が予想された生物相といえ、

雑木林の保全のデータベースになります。

もっと多くの雑木林のデータを加味すればもっと正確な方程式が得られるでしょう。

 

このような分析も保護活動には必要かもしれません。

石澤直也自然詩vol.41 (2015年10月23日更新)

くぬぎ山の自然 2015年11月号

 

伐採地の植生の推移について

 

雑木林を伐採するとその後の植生がどんな風に変わるのかは、

雑木林の保全管理のために知っておくことは必要です。

 

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過去にくぬぎ山では数回伐採されたことがあり、

調べたことはありますが、今回調査した結果ではかなり植生が

豊かになっていたので、そのことをお話しします。

 

伐採地は今年(2015年)の冬から春先にかけて伐採されました。

伐採面積は約0.2haと比較的狭い範囲です。

ここの雑木林の主要な樹種は針葉樹のサワラ(13本)で、

次がコナラ(9本)でした。

ムクノキイヌザクラが各1本で、その他細いものが混ざっていましたが、

それらは調査していません。ヤマザクラは伐らずに残していました。

 

伐採した樹種の平均樹齢は表1に示してあります。

コナラ8本の平均樹齢は46年(平均直径=長径と短径の1/2)は41.1cmで、

サワラ13本の樹齢は41.7年(38cm)でした。

ムクノキとイヌザクラは直径が30cm未満で樹齢が

23年と28年と若い個体でした。

 

これを2010年秋から2011年の冬にかけて伐採された

狭山市所有地(今回の伐採地から500m北西に位置)の

雑木林のコナラ19本の樹齢を比較すると、

狭山市のは平均樹齢は54.4±5.2年(平均直径28.1±8.5cm)と、

細いにもかかわらず高樹齢です。

この違いは雑木林の位置に関係しているかもしれません。

狭山市所有地はくぬぎ山の北側に位置して住宅街に近く、

北風の影響があります。

それに対して今回の伐採地はくぬぎ山の南東に位置して

周囲を他の雑木林で囲まれています。

従って、湿度が高かった可能性があり、

それが木の成長を速めた可能性があります。

 

以前、くぬぎ山のコナラとここから8km南の狭山丘陵の

コナラの樹齢を比較したところ、狭山丘陵のコナラはくぬぎ山のコナラと同じ樹齢でも幹が太いという結果でした。

くぬぎ山は武蔵野台地という扇状地に位置し、地下水位が低く、

水の供給が少ないので、成長が遅い傾向があります。

 

今回の結果はくぬぎ山の中でも木の成長に違いがあることを示しています。

 

木が高樹齢の場合、伐採してもその根株から萌芽はしにくい、

と言われていますが、今回の調査ではコナラは9本で萌芽していました。

その他の樹種でも針葉樹のサワラを除いて全て萌芽していました。

最近は高樹齢の伐採でも萌芽する傾向があります。

 

今回、この伐採地で伐採直後(4月23日)と6ヶ月後の10月18日に調査した

植生を比較したものが表2に示してあります。

 

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今回の調査も含めて当地で記録された植物はコケやシダも含めて

111種に上り、各調査日に記録された種数は、伐採直後は71種で、

今回では91種で20種も増えていました。

 

キンラン(写真1)ササバギンランなどの春に記録されたものの中には

今回の調査で漏れたものがありますから、

実数は100種を超えている可能性があります。

 

前に触れた狭山市所有地では伐採4年で3倍に増え92種記録されています。

 

このように、伐採されて樹冠の閉鎖が解かれて林内が明るくなると、

今まで発育が阻害されていたものが発芽してくる事が多くなり、

勢い林内の植生が豊かになります。

今回、当地の希少種等の個体数も調べてみました(表3)

 

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ランの仲間が5種類、春にはフデリンドウが6株、

今回の調査でリンドウ(写真2)が6株、ヤマユリが3株見つかっていました。

オオバノトンボソウは春の調査で135株も見つかっています。

表3には掲載していませんが、今回の伐採でクチナシグサ(絶滅危惧IB類)

数えられないほどに増えていました。

この植物は伐採後に生えてくる植物で、

雑木林の伐採更新により分布が拡大する種です。

 

このように伐採すると林床の植生が豊かなものになると言えます。

今回の植生は伐採後のものを比較していますが、

本当は伐採前に調査しておくことが必要です。

そうすることによって、植生の遷移がより明確なものになります。

 

また、キンランなどはある程度日が差すようなところに分布しています。

できれば伐採前と後の当該地の林床の照度も計測しておくこと

あって良いと思います。

 

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写真1.キンラン

 

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写真2.リンドウ

石澤直也自然詩vol.40 (2015年09月23日更新)

くぬぎ山の自然 2015年10月号

 

クズのお話

 

クズはマメ科のツル性の多年草で学名は、

Pueraria montana var. lobataと言い、

秋の七草の一つに数えられています。

 

北海道から九州まで日本各地に分布していて、

外国では中国からフィリピン、インドネシア、ニューギニアに

分布しています。

北アメリカでは1876年にフィラデルフィアで開かれた

独立百年祭の博覧会に日本から運ばれて

飼料作物や庭園の装飾用に展示され、

その後は緑化、土砂流失防止に植栽されたのですが、

繁茂の早さから瞬く間に分布が拡大して、

今では世界の侵略的外来種ワースト100の一つに指定されています(Wikipediaより引用)。

アメリカでの生育面積は3万㎢にもなり、

この面積は日本の四国の面積の1.5倍に相当します。

 

ツルは長いものでは10mにも達し、低木に巻き付いて枯らしてしまうほどで、藪を構成します。

根は長いものは1mを超え、直径が20cmもの塊になるそうです。

葉は三出複葉で、小葉は幅の広い三角形をしています(写真1)。

 

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写真1 クズの葉(曇天時)

 

花は夏の終わり頃から9月にかけて穂状に立ち上がって咲きます(写真2)。

花には変異があり白いものはシロバナクズと呼ばれています。

 

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写真2 クズの花

 

日本ではクズの根は昔から食用や漢方薬として利用されてきました。

太い根からは良質のデンプンが取れ、これは葛粉と呼ばれ葛湯にされたり、

溶かして固めたものは葛切りや葛餅として和菓子に用いられます。

また料理のとろみをつけるのにも利用されています。

 

葛粉で有名なのが奈良県吉野町で吉野葛と呼ばれ、

そもそもクズの由来もここ紀ノ川上流の国栖(クズ)が

産地だったことに由来しているそうです。

薬用としては葛根が有名で、発汗、鎮痛作用の他、

風邪や胃腸不良にも効くそうです。

薬用として根を採集する時期は初夏だそうです。

 

この植物はマメ科特有の日照に反応することで(ネムノキが有名)、

曇りの日には全体として葉は開いていますが(写真1)、

日射が強い時には古い葉を中心として葉の表を中側に閉じます(写真3)。

但し、ツルの先端の若い葉は開いている傾向があります。

反対に夜間には葉の裏側に閉じます(写真4)。

 

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写真3 クズの葉(強い日射時)

 

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写真4 クズの葉 (夜間)

 

このような性質を持っていると干ばつの時に被害が軽減されます。

1988年のエルニーニョでアメリカの中西部が大干ばつに見舞われ、

穀物に大きな被害が出ましたが、

最も被害が大きかったのがトウモロコシで、大豆(マメ科)は

トウモロコシよりも被害が少なかったです。

 

このクズを食草とする昆虫は多く、代表的なのがコフキゾウムシです。

クズの葉の縁にギザギザの食痕が見つかるのはこの虫によるものです。

他にはオジロアシナガゾウムシやマメコガネがいます。

 

しかし、このクズを食草としている昆虫でレッドデータブック記載の

昆虫が秋の鳴く虫に唄われているクツワムシ(写真5)です(絶滅危惧IB類)。

 

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写真5 クツワムシ

 

キリギリスの仲間ですが、この仲間は皆肉食なのに対して

クツワムシだけは草食で、クズに依存しています。

残念なことに最近はクズが藪を形成するので

嫌われ刈り払われることが多くなっています。

結果として本種が生息できなくなります。

くぬぎ山では本種が沢山生息していて、

その生息数は埼玉県内で1、2位を争うほどです。

狭山市の上赤坂ではクズの群落を刈り払ったのでクツワムシはいなくなりました。

所沢市の市有地ではクズの群落は刈り残すようにしていて、

ここではクツワムシは健在です。

クツワムシの生息地ではクズの群落はある程度残すようにすべきです。

石澤直也自然詩vol.39 (2015年08月21日更新)

くぬぎ山の自然 2015年9月号

 

秋の初めを彩るヒガンバナ

 

ヒガンバナは秋の初めに田んぼの畦や雑木林の林縁などで

その朱色の艶やかな花びらを開いて見る人の目を楽しませてくれます。

ヒガンバナ科で学名はLycoris radiata、Lycorisというのは

ギリシャ神話の女神、海の精の一人Lycoriasに由来していると

言われています(Wikipediaから引用)。

ちなみにradiataは花びらが放射状になることからつけられています(写真1)。

 

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写真1 くぬぎ山のヒガンバナ

 

一見して江戸時代の花魁の風情も見て取れるというのは言い過ぎでしょうか。

 

ヒガンバナは彼岸の頃に咲く花ということから名付けられていますが、

この花の名前は非常に多く、代表的なものが曼珠沙華(マンジュシャゲ)で、

法華経の仏典に由来して、本来は「白いやわらかな花」なのだそうです。

他には死人花、地獄花、幽霊花、剃刀花、狐花やはっかけばばあと呼んで

不吉で忌み嫌われることがあるそうです(Wikipediaから引用)。

この植物そのものは茎、葉、球根もアルカロイド系の毒を有して、

食べたりすると吐き気や下痢を起こし、

酷いときは中枢神経の麻痺で死ぬこともあるそうです。

 

しかし、球根にはデンプンが多く、有毒成分は水溶性なので、

長時間水にさらせば毒を取り除けるので、

飢饉の時などの緊急の食料としての救荒植物としての利用価値があったそうです。

 

ヒガンバナは三倍体の球根植物で種はできません。

中国からの帰化植物で、稲作の伝来時に鱗茎が

混入してきて広まったと言われています。

夏の終わり頃に茎だけが出てきて、その先に写真のような花をつけます。

花が終わった後にが出てきて翌年の春に消えます。

このサイクルは同じヒガンバナ科のキツネノカミソリも同じで、

花の時期が夏になります。

 

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写真2 白花のヒガンバナ

 

花は赤ですが、白色のものもあります(写真2)。

 

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写真3 ヒガンバナで吸蜜するアゲハチョウ

 

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写真4 ヒガンバナで吸蜜するキアゲハ

 

写真3と4はアゲハチョウの仲間がこの花で吸蜜しているところですが、

これはアゲハチョウ類は赤色を認識できるからです。

昆虫では赤色を認識できるものは少ないと言われ、

他にはアカトンボがその性質を持っています。

他にどんな昆虫たちがこの花にやってくるか調べてみるのも面白いです。

 

ヒガンバナで有名なところは、埼玉県の日高市で、

高麗川が大きく湾曲して巾着のような地形になっている巾着田で、

市はここを観光資源としてヒガンバナの保全に努めています。

9月中旬から下旬にかけてが花のシーズンで、最盛期は9月20日前後です。

 

この時期はこの花を愛でるために訪れる観光客で大変混み合います。

最寄り駅は西武秩父線の高麗駅で、歩いて20分くらいのところにあります。

 

皆さん是非訪れて見て下さい。

石澤直也自然詩vol.38 (2015年07月24日更新)

くぬぎ山の自然 2015年8月号

 

夏のトンボ、ウスバキトンボ

 

真夏の甲子園高校野球大会のテレビ中継の最中、

グランドを飛び回るトンボを見たことがある方は結構多いのではないでしょうか。

お盆の頃にやってくるトンボで、ご先祖の霊の先駆けとなって現れるものとして、

盆トンボとか精霊トンボとか呼ばれています。

 

ウスバキトンボ(Pantala flavescens)という南方性のトンボです。

大きさは全長が5㎝程、翅(昆虫の場合羽と翅を使いわける場合が多い)の長さは

前翅が凡そ4.3㎝、後翅が4.0㎝位で、不均翅類のトンボ(翅の形が前翅と後翅で違う)の中では

珍しくそれぞれ♀の方が若干長くなっています。

このタイプのトンボでは他にオニヤンマがいます。

 

体色は全体に黄土色ですが、♂は成熟すると図1のように赤色が濃くなります。

普通赤トンボというのはアキアカネやナツアカネのようなアカネ属のトンボを言いますが、

赤いトンボの形態からこのトンボは広い意味で赤トンボの仲間に入れられています。

 

体重は成熟した個体では♂が0.32g、♀は0.45g位あります。

1円硬貨の重さが1gですから、いかに軽いか分かると思います。

これを翅の面積1㎠当たりの体重とする翼面荷重にすると、

♂は約0.02g(翼面積16.3㎠)、♀で約0.024g(同じく18.8㎠)になります。

これは不均翅類の中ではもっとも軽い部類に入ります。

 

これほど軽いので、移動するのに有利で世界中でもっとも分布範囲の広いトンボと言われています。

日本ではフィリピン付近で羽化した本種は太平洋を越えてやってきます。

太平洋上のウスバキトンボは日本の気象観測船で観察されていて、

夜中でも飛翔して船のライトに魅せられて船のあちこちで目撃されたことが報告されています。

 

ヨーロッパでは主に地中海周辺に多く、アフリカ大陸の北岸で羽化したものが地中海を渡ってやってきます。

しかし、ヨーロッパアルプスを越えてスイスやドイツなど北方への移動は殆どないと言われています。

本種の体を構成する外皮のクチクラが薄く、体温の維持には適当ではないので、

標高の高い気温の低いところでは生息が不適当だからです。

しかし、日本では北海道にまで渡って行っています。

 

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写真1 成熟したウスバキトンボ♂

 

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写真2 滑空するウスバキトンボ

 

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図1 ウスバキトンボの羽ばたきと滑空時間。線はウスバキトンボの前羽の動きを示す。

 

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図2 ウスバキトンボの羽ばたき周波数(Hz)と気温(Ta)の相関。

y(周波数)=-0.279×(気温)+39.061r=0.284,p<0.1

 

ウスバキトンボは他のトンボよりも軽いので、羽ばたきは少なく、

2〜3回羽ばたいては滑空し、これを繰り返して飛び回っています(図1と写真2)。

翅が大きいので滑空性能が著しく高く、

上の図から解析した結果では約0.1秒の羽ばたきと0.3秒の滑空を交えて飛翔していました。羽ばたきと滑空が1:3という割合は他のトンボの飛翔ではまず見られません。

羽ばたき周波数(1秒間当たりの羽の羽ばたき回数、Hz ヘルツという)は遅い方で、

平均して30.8±5.3 Hz(気温は29.5±5.4℃, n=39、♂♀の区別なし)でした。

周波数は気温と関係していて、概ね高い気温では周波数は低下します(図2)。

図ではバラツキが目立ちますが、周波数は気温が高くなると低下するというのは他のトンボでも見られます。

 

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写真3 体温を下げるために腹部を下げて飛ぶウスバキトンボ

 

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写真4 連結して打水産卵するウスバキトンボ

 

気温が高くなると周波数の低下が起きますが、

気温が30℃を超すと写真3に見られるようなことが頻発します。

腹部を下げて風上に向かって滑空します。腹部に風が当たって体温を下げるのです。

 

夏の暑いときにこのトンボの飛び回るところで♂と♀の割合を調べたことがあります。

面白いことにくぬぎ山の広い草地の上を飛び回っている個体の殆どは♀でした。

一方、航空公園の池や東京都葛飾区の水元公園の水域で捕まえた個体は殆どが♂でした。

ウスバキトンボは成熟してくると♂は水域で♀は草地などで過ごしているようです。

 

池や水たまりでウスバキトンボが産卵することが良くあり、

プールにも産卵します。♂と♀が連なって水面に向かって降下して腹端を水面に打つ連結打水産卵です。

このトンボの幼虫期間は2ヶ月未満と非常に短く、このように産卵された卵から育ったトンボが8月以降飛び交うようになります。

調べてみると殆ど成熟していない個体です。

これらの成虫が故郷の南方の地へ帰って行くのかはまだ分かっていません。

しかし、秋の中頃、これらのトンボが南の方に飛ぶのを観察した人はいます。太平洋上をあちこち移動しているのでしょうか。

 

もう一つ気になることがあります。

ウスバキトンボが木の枝などに止まる時はシオカラトンボなどがほぼ水平に静止するのと違って多くの場合ぶら下がります。

これは飛行型のトンボ(活動時間の殆どを飛翔している)と言われているものに特有の静止方法です。

一方、頻繁に静止するトンボは静止型のトンボと呼ばれ、飛翔しては静止することを繰り返します。

なぜ、止まり方がこのように違うのか、今のところ調べた人はいません。

 

そこで、静止する際の脚に注目してみました。

トンボの脚は昆虫ですから前肢、中肢、後肢各1対の6本です。

この内、長い中肢と後肢の各腿節の長さの比を見てみました。

 

ウスバキトンボの中肢の腿節を後肢の腿節で割った数値は0.92、オニヤンマ(飛行型)も0.95と0.9よりも大きいのに対して、

シオカラトンボは0.75、ショウジョウトンボが0.71、アキアカネも同じく0.71、

コフキトンボに至っては0.58と、中肢の腿節の長さが短いものでした。

こうしてみると飛行型のトンボは中肢の腿節が静止型のトンボのものよりも相対的に長いと言え、

従って、飛行型のトンボでは中肢は長い傾向にあることが分かりました。

 

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写真5 垂直に静止するウスバキトンボ

 

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写真6 水平に静止するシオカラトンボの♂

 

写真5からウスバキトンボでは脚全体をつかって垂直に静止しているように見えます。

シオカラトンボでは水平に静止して前肢が遊んでいるように見えます(写真6)。

中肢と後肢で止まっています。

 

他には羽の羽ばたきが影響している可能性があります。

ぶら下がっている方がいざ飛び立つときに羽の煽り(ストローク)を大きく取れます。

ウスバキトンボは別として、翼面荷重の大きい飛行型のトンボではストロークを大きく取れるのは有利なはずです。

 

彼らは体温の上昇には羽を小刻みに長い時間振るわせてウォーミングアップを計ります。

このため、水平に止まると羽が葉や地面に触れて損傷してしまう恐れがあり、

垂直に止まった方がそれを防ぐことができるメリットがありそうです。

静止型のトンボでは枝などに止まるよりも平たい物に止まって、

太陽光を集めて体温の上昇維持に努める方が得策ですから、

飛び立つ際は小刻みに素早く羽ばたいているかもしれません。

 

このようにウスバキトンボはありふれたトンボですが、

まだ分かっていないことが大変多いトンボです。

近年は温暖化の影響もあり、ウスバキトンボの飛来の目撃が早くなっていて、

これらの大部分は日本本土でヤゴが越冬しているからだと言われています。

 

今後も注意して見る必要があります。

 

石澤直也自然詩vol.37 (2015年07月02日更新)

くぬぎ山の自然 2015年7月号

 

夏の雑木林の樹液場に集まる昆虫

 

夏に雑木林の縁を歩くと、クヌギやコナラの大木が樹液に濡れていて、

そこには様々な虫たちが訪れているのを見たことがある人は多いでしょう。

 

その虫たちの中でも代表種は何と言ってもカブトムシです。

他の虫たちを押しのけて樹液場を確保しています。

更にその脇にはクワガタムシやスズメバチも押し合いへし合いして樹液を吸っています。

 

そもそもこの樹液はどんな物でしょう。

いろいろ成分を分析した結果から、エタノールや酢酸、

ブタンやアセトン、酪酸などが含まれていると言うことです。

 

これらの樹液は植物の光合成の過程で作り出される物で、

太陽光と根から吸い上げた水と空気中の炭酸ガスで糖を作り、

それを植物組織全体に送るときに、植物の幹に傷がつくとそこから糖分が沁みだし、

そこで微生物の働きで発酵して樹液となると言われています。

 

この樹液に似た食品は焼酎、酢、食パンやヨーグルトなどだそうで、

特に焼酎とと酢は虫たちを惹きつけるようです。

従って、樹液に似たものを作る場合は焼酎や酢、

それに砂糖を加えて、水あるいはビールで割ると虫の大好きな液体になります。

 

樹液の量は夜間は葉の組織の活動が弱まるので、

樹液の出はあまり多くはないようですが、

高温多湿の夜間には誘因成分の発散で多くの虫たちが集まります。

樹液場には昼間と夜間で虫たちが少し違ってきます。

昼間には昼行性の虫が、夜間には夜行性の虫が多くなります。

カブトムシやノコギリクワガタ(写真2)など甲虫の仲間は昼夜を問わず群れています(写真1)。

 

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写真1 樹液場に群れる虫たち

 

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写真2 ノコギリクワガタ

 

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表1 樹液場を訪れる虫たち。 *訪れる時間帯。

 

表1は樹液場にくる虫たちを昼夜で分けた物です。

昼行性の虫は24種、夜行性の虫は30種と夜行性の方が多くなっていますが、

これは蛾類の多くは夜行性だからです。

ハチ類はスズメバチの仲間で昼行性ですが、夜間も居残りが見られることがあります。

 

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写真3 アカボシゴマダラ

 

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写真4 サトキマダラヒカゲ

 

チョウの仲間は昼行性で、ゴマダラチョウ、アカボシゴマダラ(写真3)や

サトキマダラヒカゲ(写真4)など、また、ハエ類もキンバエなどが見られることがあります。

また、昆虫ではありませんが刺されるとと痛いムカデ(写真5)や

ゲジゲジ(正式名称はゲジ、写真6)も樹液場周辺で見られます。

 

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写真5 ムカデ 

 

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写真6 ゲジゲジ

 

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写真7 ボクトウガ幼虫

 

樹液場に集まる小型の甲虫やその幼虫を補食するボクトウガの幼虫(写真7)も

樹液場で昼夜を問わず見られることがあります。

甲虫ではカブトムシなどの他では

アカアシオオアオカミキリ(写真1)は大きく鮮やかできれいです。

 梅雨の頃の樹液場では鮮やかな朱色のヒオドシ(写真8)を見ることがあります。

 

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写真8 ヒオドシチョウ

 

このチョウは羽化すると間もなく姿を消してどこかで越夏して、

翌年の春に出てきます。越夏に入る前の一時の姿を見られたら幸運です。

夜間の樹液場ではオオシマカラスヨトウやシタバ類(Catocala属)を

見ることが多くなります。フシキキシタバ(写真9)の橙色の下羽(後翅)は非常にきれいです。

 

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写真9 フシキキシタバ

 

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写真10 コシロシタバ

 

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写真11 ムクゲコノハ

以前はそれほど目立たなかったのですが、最近多くなりました。

コシロシタバ(写真10)も多い種類です。

また、スズメガも結構見られ、中でもベニスズメ(写真1)は綺麗です。

但し、夜間ストロボをたいて撮影するときは、最初のショットで撮らないとすぐに逃げられます。

ムクゲコノハ(写真11)も下羽が赤く目立つ綺麗なガです。

 

夜間にこれらの虫たちを追いかけて撮っていると時間が経つのを忘れます。

石澤直也自然詩vol.36 (2015年05月26日更新)

6月はクリの花の季節

 

6月は梅雨の季節で、初旬は雑木林ではクリの花(写真1)が咲きます。

クリはブナ科の木本で、学名はCastanea crenata、

雄花は穂状になり、その付け根に雌花がつきます。

ブナ科の多くは風で受粉する風媒花ですが、

クリやシイは虫によって受粉する虫媒花です。

雄花の香りが強く多くの虫が訪れます。

 

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写真1クリの花

 

クリの花の開花は以前は6月上旬でしたが、

最近は5月下旬に開花するようになり、

もう既に咲いているところがあります。

くぬぎ山や他の地域のクリの花を訪れる虫を写真から

拾ったところ表1の様になりました。

 

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表1

 

他にもいると思いますが、一応38種記録されました。

最も多かったのが甲虫目で17種、次がチョウ目で11種、

ハチ目は5種、ハエ目は5種でした。

ハチ目のうちオオスズメバチはクリの花から蜜を吸い求めるのではなく、

餌として適当なものがないかを探りに来ていたというのが妥当の様でした。

他にはジョウカイボンもオオスズメバチと似ていて、

この虫は他の昆虫を食べるそうです。

もちろん蜜も吸うと言われています。

 

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写真2 コアオハナムグリ

 

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写真3 アオカミキリモドキ

 

完全変態する昆虫では羽化して成虫になってから

摂食することを後食(こうしょく)と言います。

後食ではハナムグリの仲間(写真2)も

クリの花で吸密したり花粉を食べたりしますが、

カミキリムシの仲間も同様です。

コメツキムシ科のサビキコリもクリの花で見られました。

アオカミキリモドキ(写真3)はクリの花で非常に多く見られます。

この虫の体液にはカンタリジンという有毒物質が

含まれているために触れたりすると皮膚が水疱になったりします。

因みにカンタリジンというのはフランスの

ピエール・ジャン・ロピケがジョウカイボン科(Cantharidin)の

虫の体液から分離して命名したと言われています。

 

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写真4 ベニカミキリ

 

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写真5 ジョウカイボン

 

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写真6 エグリトラカミキリ

 

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写真7 ヨツスジハナカミキリ

 

ツチハンミョウもカンタリジンを含む昆虫です。

日本にいるカミキリモドキは約40種記録されていますが、

そのうち21種はカンタリジンを持つと言われています。

キバネカミキリモトキにカンタリジンがあるかは不明ですが、

さわらない方が良いと思います。

カミキリムシの仲間はその模様が美しく、見ていて楽しいものです。

エグリトラカミキリ(写真6)やヨツスジハナカミキリ(写真7)などが有名です。

 

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写真8 コマルハナバチ♂

 

ハチではコマルハナバチ(写真8)はこの時期は特に雄バチが多く、

黄緑色の可愛いハチで、雄ですから刺しません。

身体や脚に花粉をつけて巣に運びますが、

その時あちこち歩き回るので花粉が雌花について

受粉の手助けをすることになります。

 

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写真9 ヒメセグロケバエ

 

ハエの仲間ではこの時期ヒメセグロケバエ(写真9)は

非常に多く発生してクリの花で見られます。

ハエ類もハチ類同様口吻しかないので吸蜜が主なはずです。

口吻や脚の周りに付着した花粉が雌花について

受粉の手助けをするのでしょうが、花バチ程ではないはずです。

 

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写真10 ウラナミアカシジミ

 

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写真11 アカシジミ0

 

チョウ類ではこの時期はミドリシジミの仲間の発生期で、

クリの花で吸蜜するのが見られます。

ウラナミアカシジミ(写真10)やアカシジミ(写真11)は

特にクリの花で目立ちます。

テングチョウは羽化したばかりで新鮮な個体が吸蜜しているのが見られます。

 

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写真12 キマダラセセリ

 

また、コチャバネセセリやキマダラセセリ(写真12)も見られます。

リストに含めていませんが、イチモンジセセリも見られるかもしれません。

 

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写真13 ヒロオビトンボエダシャク

 

また、この時期はトンボエダシャクが飛び回ります。

写真はヒロオビトンボエダシャク(写真13)ですが、

飛んでいるところでは後者の体側の模様が不規則なのが

特徴ですがよく見えないので両者の区別は難しいです。

 

このように多くの昆虫たちがクリの花を訪れるので

秋にはクリの実が豊に実ります。

 

虫というのは楽しいものです。

 

石澤直也自然詩vol.35 (2015年04月30日更新)

くぬぎ山の自然 2015年5月号

 

くぬぎ山のバラ科植物(2)

本誌2013年5月号でくぬぎ山のバラ科植物について書きましたが、今回はその続きです。

 

バラ科植物(Rosaceae)の中でも代表的なものはいわゆるバラです。

園芸種で色が多彩、花弁も多く、5月のバラ園を飾り訪問者の目を楽しませてくれます。

 

このバラについて、ギリシャ神話では愛と美の女神

アフロディーテ(ローマ神話ではヴィーナス)が海から誕生したとき、

大地がそれと同等の美しさを持つバラの花を作ったといわれています。

ギリシャ時代に、この花は愛と喜びと美と純潔を象徴する花とされ、

結婚式に花嫁がバラの花束を持つ風習につながったのだそうです。

 

ローマ時代には、一輪の白いバラを天井につるし、

その下で話されたことは一切秘密にして約束を守るという習慣が

あったそうです(http://futami.good.cx/flowers/rose/index.htmから引用)。

 

一方、この美しいバラが戦争の象徴みたいに使われたことがありました。

15世紀半ばにイギリスで30年間に亘って封建貴族による

王位継承をめぐって起きたバラ戦争です。

ランカスター家が赤バラのバッジ、ヨーク家が白バラのバッジをつけて戦い、

1485年にランカスター派のヘンリー・テューダー(後のヘンリー7世)が治めて、

テューダー王朝が成立しました。ヘンリー7世は赤バラと白バラを合わせて、

ヨーク家とランカスター家の融合の象徴としたテューダー・ローズの紋章を制定しました。

この紋章はUnion Roseとも呼ばれています。

 

前置きが長くなりました。

くぬぎ山のバラ科植物が25種もあることは前に書きました。

 

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表1はそのリストです。草本が5種、木本が20種です。

ここにはバラの花のような八重のものはありません。

ミツバツチグリ、ヘビイチゴ、ヤブヘビイチゴや、ここにはありませんが、

キジムシロやオヘビイチゴはキジムシロ属の花で互いに似ていて区別が難しいです。

ミツバツチグリ(写真1)は根が太く、地下茎が食べられるキノコのツチグリに似ていることに由来しています。

 

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写真1 ミツバツチグリ

 

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写真2 ヘビイチゴ

 

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写真3 ヘビイチゴの実

 

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写真4 ヤブヘビイチゴ

 

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写真5 ヤブヘビイチゴの実

 

ヘビイチゴ(写真2、3)とヤブヘビイチゴ(写真4、5)も大変よく似ていますが、

ヤブヘビイチゴの花は副萼片(花弁の下の三角形の萼の

さらに下に葉の様に広がっている)が前種のように目立ちません。

また、6月頃に見られる実もヘビイチゴは小さく、種子の粒々が荒く、

ヤブヘビイチゴのは大きくきめ細かく付いています。

キンミズヒキは大根のような葉で、秋には小さな黄色い花を咲かせます(写真6)。

 

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写真6 キンミズヒキ

 

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写真7 ワレモコウ

 

ワレモコウ(写真7)はおよそバラ科らしくないバラの花で地味です。

 

ピラカンサ、シャリンバイ、ヤマブキ、シロヤマブキやユキヤナギは主に植栽されている植物です。

 

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写真8 クサボケの花

 

クサボケ(写真8)は春の雑木林の林床を飾るもので、下刈りでは刈り残してほしい植物です。

 

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写真9 テリハノイバラ

 

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写真10 テリハノイバラ花

 

くぬぎ山ではノイバラとテリハノイバラ(写真9、10)があるのですが、

後者の方が多いくらいです。葉に光沢があり、花付きは少なく、

ノイバラより大きめの感がします。

 

カジイチゴは茎に棘がないのが特徴で、花弁が広く葉はモミジに似ています。

 

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写真11 クマイチゴ

 

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写真12 クマイチゴの実

 

クマイチゴ(写真11、12)は茎や枝が赤紫色で、花はカジイチゴに似ています。

葉もモミジの形です。果実は赤く食べられます。

 

ニガイチゴはクマイチゴに似ていますが、茎が青白く棘が多いのが特徴です。

実が甘く食べられるのですが、苦味もありニガイチゴと呼ばれています。

 

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写真13 モミジイチゴ

 

モミジイチゴ(写真13)は花期は早く、3月下旬から咲き出します。

野生種のキイチゴでは一番甘い感じがします。

枝は細く緑色で棘があり、花は大きめで下向きに咲きます。

実はオレンジ色です。

 

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写真14 ウワミズザクラ

 

ウワミズザクラ(写真14)の幹はヤマザクラに似ていて、

イヌザクラの幹が灰色っぽいのとで区別できます。

花は当年出た枝の先端に咲き、イヌザクラより花付きが豊かです。

 

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写真15 コゴメウツギ

 

コゴメウツギ(写真15)は花の時期は野生のバラ科植物の中では遅い方で、

5月上・中旬で群落を作って咲きます。

飯能市の奥、顔振峠山頂のコゴメウツギは素晴らしかったです。

 

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写真16 ヤマザクラ

 

最後にヤマザクラ(写真16)で締めます。

くぬぎ山ではこのサクラは多く、大木のものが目立ちます。

おそらく昔の農家では農用林の林縁に残したものでしょう。

雑木林を飾る風景の一つとして大事にして行きたいものです。

 


石澤直也のくぬぎの森環境塾自然詩
まんが日本昔話の原作者